バラは咲く

ちいさな村に、姉妹がすんでいた。
ふたりはバラを育てていた。
毎年ちがう色のバラが咲いた。
去年は赤、今年は白。
バラは摘まれて、村人に届けられた。
姉妹はお礼にパンやミルクをもらった。

 

村人はバラで心を潤わせた。
花瓶にいけて、
お茶にうかべて、
押し花にして、
香水をつくって、
絵を描いて。
そうして、バラとともに月日を重ねた。

姉妹はバラを愛した。
いつもバラのことをおもっていた。
姉は妹に言った。
「種は赤子、やさしく土でくるんで。
芽は幼子、暑さ寒さから守って。
枝は少年、まっすぐ育つように支えて。
蕾は少女、繊細な衣に触れないで。」
「花は好きだけど、棘は痛いわ。」
妹が言うと、
「棘は、バラを大切にあつかうためにあるの。」
姉は答えた。

ある日、遠くから大砲の音がした。
村人が、戦争が始まったと教えてくれた。
村を出ていく者もいた。
姉妹は、どうしたらよいか分からずにいた。
その日も、姉妹はバラ畑にいた。
そこへ、兵士がやってくるのが見えた。
姉は、妹をバラの茂みに隠した。
「明日の朝までここにいなさい。」
兵士は、姉に一緒に来るように言った。
姉はトラックの荷台に乗せられた。
そして、走り去った。

 

妹は、ひと晩中ふるえながら茂みの中にいた。
棘で服はやぶれ、肌は切れた。
翌朝、妹は茂みから這いでた。
空を見ると、街のほうはまっ赤だった。

それから、村にたくさんの人が運ばれてきた。
年よりも赤ん坊もいた。
みな、動かなかった。
身体は、傷だらけだった。
村の人たちは、ひとりずつ、土にうめた。
お墓の上には、木を建てた。
「6月6日 女の子」
妹は、戦争というのは、人が人を傷つけて、人が人に傷つけられて、死んでしまうことなのだと知った。


バラ畑は荒れた。
一面、バラが咲いていたのが夢のようだった。
バラ。
お姉さん。
バラ。
お姉さん。
バラ。
お姉さん。

 


村人に親切にされて、妹は成長した。
妹の背が姉くらい伸びたとき、姉が帰ってきた。
姉は、お婆さんのように見えた。
「お姉さんが生きているなんて。」
「お前が生きているなんて。」

姉妹は、バラ畑に立った。
「お前の心にバラは枯れなかったでしょう。
私は、バラの棘で刺すより痛い血で染まった。
でも、バラを捨てることは出来なかった。」

「種を植えましょう。」
姉と妹は、草を刈り、土を耕した。
種を蒔いて、芽が出るのを待った。
水やりをして、虫をとり、枝を育てた。
3年目に、蕾はふくらんだ。


「バラはまた咲くんだわ。」

 

いま、

青い空に、

黄色いバラが咲いている。

 

おわり